セマフォルのファウスト博士

2021年09月13日

プラハのロココ劇場で、「プラハ二区、カレル広場40番、ヨハン・ファウスト博士」をいま上演している。凄くおもしろい翻案!

ただしこれはプラハのセマフォル劇場が1982年につくった舞台(かなり有名な作品だったらしい、しかも当時の演出はイジー・メンツェルだった!)のリメイク版で、脚本も少し省略されている。セマフォルは伝説的なグループで、カレル・ゴットとか、シュバンクマイエルとか(セマフォルは「七つの小さな演劇形式」という意味の略語で、その中には人形劇も含まれる)、後のスターが大勢ここから生まれた。

舞台となるのは、プラハの「ファウスト博士の家」
※19世紀以降、プラハのカレル広場に現存する建物がこう呼ばれているが、歴史上のファウスト博士はプラハを訪れたことはなく、ファウストとは多分何の関係もない。ちなみに「ファウストの家」とされている建物は、プラハだけでこの他に2つある。

あらすじは・・・

プラハの「ファウスト博士の家」に住む中世の大学者ファウストは、メフィストと契約し、500年後の未来に行って、素敵な女の子と出会うことを望む。でもメフィストに連れて行かれたのは、戦争終結直前の、混乱した1945年2月のプラハ(※1945年2月14日には、米軍の爆撃があった。ドレスデンと間違えたらしい)。すでに「ファウスト博士の家」は、ホテルに改装されていた。このホテルには、ナチスの宣伝映画のスタッフ達が集っており、ここは爆撃を逃れた数少ない場所の一つだった。

ファウスト譚と、ファウストが降り立った1945年と、セマフォル劇場の1982年とが渾然一体となって、物語はすすむ。給仕長のワグネルが、こっそり法外な値段でタバコを売っている。ゲシュタポに怯えるドイツ人俳優、愛を求めながら拒絶するファウスト、スターダムを駆け上がろうとするレビューダンサー達、それぞれの思惑が交錯しつつ、最後はファウストの恋人マルケータが自分はメフィストであると告白し、ファウストは米軍の爆撃で地獄落ちとなる。(※実際の「ファウスト博士の家」も、この爆撃にあっている。)


こんな面白いファウスト翻案をしたセマフォル劇場主宰のイジー・スヒーは、アマチュア人形遣いの家に生まれている。人形劇ファウストって子供心にもなぜか響くんだねえ、そしてのちのちに、またこんな傑作を生み出す。

 2021年のロココ劇場版は、セマフォル劇場についての解説から始まる。1982年の軽快なセマフォル劇場版をさらにメタ化・重厚化して美事な音楽劇に仕立て上げたロココ劇場(を含む「プラハ劇場」コンプレックス)は、いまプラハでも指折りの実力派。俳優の音楽スキルが全員高すぎてびっくりしちゃった。チェコは人形劇界も音楽スキルめちゃくちゃ高いけど、ここもすごかったな…
ロココ劇場はちなみに、イジー・トルンカが1936〜37年に自分の人形劇場を開いていた場所でもある。内装が「ロココ」(上の写真)。

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