ナポリ家人形劇団のアトリエ(イタリア/カターニア)
シチリア人形劇の中でも、トップクラスに素晴らしい操演技術を持つ、カターニアのナポリ家人形劇団!
https://www.fratellinapoli.it/
訪ねたのはあいにくシーズンオフ中だったが、アトリエを見せてもらい、目の前で演技を見せてもらった。
一九世紀末以降のナポリ家人形劇場の歴史に満ちた、驚異の部屋だった・・・・・・


アトリエを見せてくれたのは、ナポリ家のマルコさん。ナポリ家人形劇場は1877年創立、曾々祖父の代から続く。マルコさんは中核を担う人形遣いの一人。
初代はもともと、シチリアの伝統的な木製手押し車の装飾家だったが、当時既にいくつか存在していた伝統人形劇の影響を受けて自分でも始めたのだろうとのこと。
シチリア人形劇と一口に言っても都市によってスタイルは異なる。ここカターニアの人形劇では、操演者と声を出す人が異なり、人形を上から操作する。シチリアの首都パレルモの人形劇は、操演者が声も出し、人形の横に立って操作する。
台詞は台本にない。台本には導入部分だけが書いてあり、会話は一切書かれていない。声を担当する俳優が舞台のそばに腰掛け、舞台を見ながら即興で話を紡ぎ出す。

カターニアでも、メインのレパートリーはオルランド物語。オルランドの話を、最初からおしまいまで続きものとして上演するのが伝統的なスタイルだという。観衆は、毎晩続きが楽しみで仕事帰りに集まってくる。日本の寄席のようなものだ。
最後の話になると、悪役が活躍してオルランドを倒してしまう。観客はそれに本気で怒って、舞台の悪役人形に向かってなんでもかんでも物を投げつけた。下の写真でマルコさんが手にしているのは、かつて観客にボロボロにされた人形。マルコさんのお父さんは、頑張って作った人形をボロボロにされてはたまったものではないので、最後の晩だけは代わりの簡易人形を作って舞台に立たせたとのこと。

次の写真は、人形劇人の二種の神器「マンターレ」mantale(エプロン)と「ゾッコロ」zoccolo(木靴)。入門時にこれを与えられることが、人形劇人になるというある種の洗礼なのだそうだ。木靴は、闘いの場面などで、カーン!と大きな音を出すのに使う。

マルコさんは操演者としてもすごく素晴らしいのだが、自分で人形も作る。人形作りの道具は市販の物では間に合わず、一人一人が自分でつくるのだという。「誰が一番うまい道具を作れるか?」というのは家族の中でもお互い競い合っているそうで、マルコさんも、お父さんが作った道具を触ることが許されないという。
下の写真は、人形のよろいや盾に使う金属を加工するためのもの。一つ一つ、違う形をしている。

カターニアに人形劇学校は無いが、ここが学校みたいなもの、とマルコさんは言う。学びたいといってやってきた人には、ここで操演、美術、演出、脚本、全てを教える。小学校などで上演やワークショップをすると、その後数年して、徒弟に入ってくるのだそうだ。まだカターニアでも、伝統人形劇が、子ども達の心を強く捉えている。当然のことだと思う。技術のキレがすばらしいので、人形がバチッ、バチッ、と剣を振るいながら、歌舞伎の見得のようにいちいち完璧なかっこよさを示すのだ!
