ヴァッカーロ・マウチェーリ家人形劇場(イタリア/シラクーサ)

2018年04月20日

シチリア人形劇といえば、まずパレルモ、次にカターニア。忘れられがちな第三の町が、ここシラクーサ。プラトンやアルキメデスが歩いた、古い古い町。

シラクーサの町で、人形劇の劇場と美術館を営むのが、上の写真に写るアルフレード・マウチェーリの家族。
https://www.teatrodeipupisiracusa.it/#

この一家が人形劇を始めたのは、アルフレードのおじいさんのロザーリオさんが路上で手作り人形劇を始めたのがきっかけだった。ロザーリオおじいさんの子どもは人形劇の仕事を嫌がったけれど、孫のアルフレードさんとその弟さんは、おじいさんの仕事を引き継ぎたいとがんばった。政府から補助金を打ち切られたりと色々大変なことを乗り越えて、いまでは、二年前に出来たばかりのピカピカの新しい劇場と人形劇美術館を運営している。(場所は、シラクーサから貸与を受けている。)

劇場で働くのは、現在6人。アルフレードの兄弟と、絵描きの友人と、音響・照明・俳優を兼ねる少女。80人定員の、小さいながら立派な劇場を、掃除から何からみんなでやって守っている。

シチリアの人形劇は、16世紀の叙事詩、アリオストの「狂えるオルランド」(Orlando Furioso, 1516-32)が最も基本的なレパートリー。オルランドの誕生、少年期、恋、戦い、・・・。アルフレードの劇場でも、ひたすらオルランドの続きものを毎年15演目くらい上演している。

私が見たのは、やはりオルランド物語の一節、「アンジェリカの逃亡」(La fuga di Angelica)。人形劇人は本当に働き者だなあといつも思うけれど、それにしてもアルフレードの人形劇場はすごい。毎年3月から翌1月まで、なんと一日も欠けることなく、毎日上演している! しかも多いときは一日5回も上演があるとのこと。

シラクーサのオペラ・デイ・プーピ(シチリアでの「人形劇」の呼び方)は、このように上から操作するタイプ。プロセニアムに隠れて、操演者は見えない。ちなみに操演者からも、客席は見えない。この点は、同じように上から操作するが操演者が丸見えで上演するカターニアの人形劇と異なる。

客層は、8割が観光客。この点は日本の人形劇と大いに違うところだ。地元民のみ対象ではやっていけないという。しかし、アルフレードたちのすごいところは、一年に15レパートリーもやっているということだ。しかも、そのうちいくつかは新作。

人形劇が世界無形文化遺産に選定されたチェコのプラハで、一年中ずっと同じ演目をやっている劇団を見たことがある。観光客相手と割り切ればそういうことになってもおかしくない。アルフレードは、観光客をあてにしないと劇場を続けていけないけれど、観光客だけのためにしたくない、常に新しい人形劇を創造していきたい、と言っていた。

1970年代は、伝統的な人形劇とはちがうかわいい人形も作った。当時、シチリアでもテレビアニメが沢山放映され、シラクーサの子ども達が伝統人形劇に見向きもしなかった時代があったようだ。しかし、現在ではそうしたマンガ・アニメ的な人形劇はすっかり人気を無くし、子ども達が好むのはもっぱら伝統人形劇とのこと。

40才になったばかりのアルフレードは、人形劇界ではまだ若い方。脚本・演出もするし、人形に着せる洋服も作る。毎年、どんどん新作もつくる。同じく若手の人形劇人*として、わたしもワクワクした。


*人形劇人:"puppeteer"という概念は、人形操演者に限らず、人形美術家、人形劇演出家、制作者、研究者、さらには愛好家まで含む、広い概念なのだそうだ(プークの小梛さん談)。それでいうと研究者の私も人形劇人なのだ。

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