ドレスデン国立美術館付属、人形劇コレクション

2020年01月06日

 「誰も事前に忠告してくれなかったの?」

  〜〜ドレスデン・人形劇コレクション、レベーン先生の大講義〜〜


ドレスデン国立美術館は素晴らしい。場所も、ツヴィンガー宮殿やアルベルティヌムの中にあって、豪華絢爛この上ない。

が、この美術館が、ドイツ屈指の人形劇コレクションをも有することは、日本では(いや、ドイツでも)あまり、知られていない・・・・・・ 

人形劇コレクション(というか保管庫)はツヴィンガー宮殿の中ではなくて、中心地から少し離れた大きな教会の中にある。
https://volkskunst.skd.museum/ausstellungen/puppentheatersammlung/

ドレスデン国立美術館の一部門をなす、ザクセン民俗博物館の館長にまずメールすると、次のような返事がきた。

「ご連絡ありがとう。私は人形劇コレクションの責任者ですが、実は人形劇についてご説明するにはもっと適任の者がいます。レベーンさんです。あなたのあらゆる質問に、一つ残らず答えてくれるでしょう。ガルニゾン教会を訪れてください。シュタウフェンベルガー通り9番です。」

人形劇コレクションがある教会。第二次世界大戦中、軍人のための教会として使われた。礼拝堂は現在、廃墟のようになっているが、ここに人形劇関連の宝物が眠っている。
人形劇コレクションがある教会。第二次世界大戦中、軍人のための教会として使われた。礼拝堂は現在、廃墟のようになっているが、ここに人形劇関連の宝物が眠っている。

 そこで、私は約束の日の朝10時に、ドレスデンの中心地から少し離れた、ガルニゾン教会へと赴いた。重そうな門を叩くと、満面の笑みをした男性が迎えてくれた。それが、レベーン先生だった。門が開いたその瞬間から、先生の大講義は始まった。「質問に何でも答えてくれる」との話だったが、とくに質問をしなくても自動的に講義が始まった。有り難いことだ・・・

教会の門から中へと入る狭い階段に、人形劇のポスターが飾られていた。開口一番、その説明が始まった。それが終わると、コレクションの元になった人形劇コレクターのドイツ人医師の話へと続いた。

ドレスデンの人形劇コレクションの元となったのは、一人のコレクターの遺品である
ドレスデンの人形劇コレクションの元となったのは、一人のコレクターの遺品である

顔を合わせてから30分ほど経過したとき、この日初めて、口を挟むタイミングが訪れた。「さて、アナタの聞きたいことは何でしたか・・・ ファウスト人形劇についてでしたか?」

「ハイッ、そうなんです、ファウストのカスペルについて・・・」

そこまで言って、一瞬、どのように質問しようかと考えて言いよどむと、「カスペル!」と先生は叫び、そこから次の60分間、1750年から現在に至るまで、250年以上のカスペルの歴史について、全く休みをはさまずお話しされた。

カスペルの話を一通り話し終えた先生は、はじめて1.5秒間ほど口をつぐんだ。「さて、あなたのご質問に答えられたでしょうか?」
私の質問は何だっただろうか? と一瞬分からなくなったが、本日二度目に訪れた、この機を逃してはならないと、私はいつにもまして早口でこのように述べた。

「ハイッ、カスペルもそうですが、例えばチェコではファウストの物語が・・・」

とまた一瞬、言いよどんでしまった、その瞬間、「チェコ!」と先生は叫ばれ、そこからまた60分間、次の講義が始まった。旧ソ連で人形劇が盛んになった経緯から、チェコのアマチュア人形劇、チェコの人形遣いとして最も有名なコペツキ、チェコのファウストはドイツ人を馬鹿にする独特な一場面があること、などなど、立て板に水といったようす・・・

このようなやり取りが、7〜8回ほど繰り返された。他に私が言いかけた質問は、「第一次大戦中、兵士が人形劇を・・・」、「ミュンヘンの人形劇ルネサンス・・・」、「国家社会主義の際に人形劇は・・・」「ベルリン東西の人形劇の違い・・・」などであった。

外は暗くなり始めていた。私は喉がカラカラになっていることに気付いた。
が、私の1000倍の語を発しているはずのレベーン先生が一滴の水も口にされておらず、まだまだこれからといったご様子で、わたしはコップに水を一杯、と言い出すことができない。

心からの御礼を告げ、教会を辞したとき、8時間が経過していた。メモをとろうとして持参したノートは、何十ページも書き込まれていたが、最後の方は読み取ることができなくなっていた。

強い風が吹いていた。私はもうろうとしつつも、コーヒーと水を求めて、薄暗いドレスデン郊外の通りを、歩いた・・・・・・

教会内。窓から日が差し込むが薄暗い
教会内。窓から日が差し込むが薄暗い
コレクションの「容れ物」としての機能しかいまは持たない教会なので、内部は朽ちている
コレクションの「容れ物」としての機能しかいまは持たない教会なので、内部は朽ちている
所蔵物を修復する部屋もある。
所蔵物を修復する部屋もある。
修復が終わった人形
修復が終わった人形

次の日、電車を乗り継いで、ボーフムにある「ドイツ人形劇フォーラム」というところへ行った。ディレクターのアネッテさんに、「ドレスデンで、すごい先生に会った。水も飲まずに大講義をされる体力に圧倒された」とお話ししたところ、「えっ、誰も忠告してくれなかったの?」と一言。「有名な話よ」とのこと。

次に行くことがあれば、2Lのペットボトルを必ず持参しよう、と思った。

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