キシル家のマリオネット

2021年02月23日

 プラハ郊外、キシルさん家族が作っているホームメイドのマリオネットを沢山見せてもらった。石膏型で作った人形の頭と足に、一つ一つ手でペイントする。胴体は木製。ほそい針金で、石膏の頭や手足と、木製の胴体を繋げてある。洋服も一つ一つ手縫いで作られる。いま、製作をメインで担っているのは、二代目のズザナさん。死神、魔女、お姫様に王子様……、58種類ものマリオネットを作っている。

 この人形の造形には由緒がある。有名なアントニーン・ミュンツベルク(1871-1954)の人形がモデルとなっているのだ。ミュンツベルクは、1912年から1950年のあいだ、チェコで初めて量産型マリオネットを作った。(チェコのアマチュア人形劇人データベースにあるミュンツベルクの項目はこちら。)

 量産品だったけれど、オリジナルのミュンツベルク人形はいまではとても価値があるらしい。ミコラーシュ・アレシュ(1852-1913)という当時の有名なイラストレーターがそのデザインを手がけたので、ミュンツベルク人形はなかなか良い姿をしている。(ヤロスラフ・ブレハ「チェコ家庭人形劇の歴史と舞台美術の影響」p.134に、アレシュデザインのミュンツベルク人形の写真がある。)

 キシル家のマリオネットは、芸術品というのではなくて手仕事感あふれる民芸品だけど、チェコの「家庭人形劇」(各家庭で用いる人形劇舞台セット)の伝統の一端を支えてきたことは確かだろう。チェコはプロ人形劇シーンに劣らずアマチュア人形劇シーンが盛んで(アマチュア人形劇団だけの人形劇フェスティバルもある)、芸術的水準もとても高いしプロとの境が日本ほどはないように思うが、「家庭人形劇」の豊かな伝統がそれを可能にしているんだろう。

 

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